出張から戻ると、判断待ちの案件が机に積み上がっている。
社員から相談を受けても、聞かれるのは「どうしましょうか」という一言だけ。
月次会議では、先月と同じ案件が、同じ状態でまた議題に上がる。
こうなるのは、社員に主体性がないからではありません。自分で判断するために必要なものが、渡されていないからです。
この記事では、自走の土台となる3つの条件と、その上にある「学びが社内で回る状態」を合わせた4つに分けて整理します。私が自分の会社で、社長に集まっていた判断を社内へ移してきた過程をもとにしています。
自走とは、社員が勝手に動くことではない
先に、この記事での言葉の意味をはっきりさせておきます。
自走とは、社員が指示なしで勝手に動くことではなく、判断基準・考える場と数字・詰まりの受け皿という3つの土台が社内にそろっている状態です。
そこに、学びが社内で回る仕組みまで加わると、社長が直接動かなくても改善が続く状態に近づきます。土台の3つと、その上の1つ。この記事では、その4つを順に見ていきます。
ここを取り違えると、打ち手がずれます。「もっと主体的に動いてほしい」と伝えることが対策になってしまうからです。
伝えるだけで動けるなら、すでに動いています。動けないのは、判断の材料が社長の頭の中にしかないからです。
「社長がいないと止まる」のは、能力の問題ではない
社長が不在だと業務が止まる。この状態を、社員の力量の問題として見てしまうことがあります。
しかし私が自分の会社で見てきた限り、止まる理由はもっと単純でした。判断してよい範囲と、判断のよりどころが決まっていないのです。
決まっていなければ、社員にできるのは1つしかありません。社長に聞くことです。聞くのは正しい行動であって、依存ではありません。聞かずに間違えるほうが、会社にとって困ります。
つまり、社長へ質問が集中している状態は、社員の姿勢が現れているのではなく、判断の設計がまだ社長の中にあることが現れています。
自走は、目標にして直接近づくものではありません。判断基準、考える場と数字、詰まりの受け皿、そして社内で回る学び。この4つを整えた結果として、後から現れます。

条件1|何を満たせばOKかの判断基準がある
1つ目は、判断基準です。
社員が自分で決められないとき、渡されていないのは答えではなく、答えが正しいかどうかを自分で判定する材料です。
私の会社にも、この抜けがありました。予算づくりのときです。
以前の私は、各部門に「予算を作ってください」と依頼していました。ところが、会社として何を達成すればOKなのかを先に示していませんでした。各部門は自分の部署の積み上げで数字を作り、結局こちらで作り直すことになっていました。
いま私は、順番を変えています。
会社の損益計画を先に立てる
↓
達成すべき水準を各部門へ渡す
↓
その水準を満たす形で各部門が計画を作る
答えを渡すのではなく、OKかどうかを判断できる基準を渡す。この順番にしてから、作り直しは減りました。
この条件が欠けているときのサイン
- 相談が「どうしましょうか」で始まる
- 予算や重要資料をつくる「考える順番」が決まっていない
- 社員が出してきた案を、社長が作り直している
基準がないと、社員は正解を当てにいくしかありません。当てにいく作業は、考える作業とは別のものです。
▷【関連記事:社長が全部決める会社を変える|答えより先に「判断基準」を渡す】
条件2|考える場と、見る数字がある
2つ目は、考える場と数字です。
判断基準を渡しても、それを使う場がなければ運用されません。基準は、月次会議のような定期の場で使われて初めて定着します。
必要なのは次の2つです。
- 数字:KGI・成果KPI・プロセスKPI。いずれも予算から展開されたもの
- 場:その数字と予算との差異理由を持ち寄り、次の行動を決める月次会議
数字がないと、話し合いは印象の交換になります。場がないと、数字は報告されるだけで終わります。どちらか一方では機能しません。
ここが整っていない状態で「自分で考えてほしい」と伝えても、社員は何を材料に考えればよいのか分かりません。
私の会社では、まず数字の側から手をつけました。売上のような成果の数字だけを見ていた状態から、その成果につながる行動の数字を置くようにしました。
ここで注意が要ります。行動の数字なら何でもよいわけではありません。私の会社でも、自分たちでは十分にコントロールできない指標を置いて失敗したことがあります。置くべきなのは、本人の判断で今日から増やせる行動です。
▷【関連記事:動けないKPI、効かないKPI|プロセスKPIが満たすべき2つの条件】
そのうえで、月次会議の報告フォームを共通化しました。結果の数字、その数字につながる行動、予算との差異の理由、次にどう対応するか。この4項目を、会議の前に書いてきてもらう形にしました。
会議で考えてもらうのではなく、会議までに考えられる状態をつくる。ここが変わってから、私が根掘り葉掘り聞く必要が減りました。
この条件が欠けているときのサイン
- 会議が数字の報告で終わり、原因と打ち手の話に進まない
- 社員同士で打ち手を考える動きがない
- 「頑張ります」「来月は挽回します」で会議が終わる
▷【関連記事:月次会議が報告会で終わる会社が、最初に見直す5つのこと】
▷【関連記事:KPIが「成果指標」しかない会社が最初に整理すべき4つの言葉】
条件3|詰まりの種類に応じた受け皿がある
3つ目は、詰まりの受け皿です。
基準と場を用意して動き始めると、必ず「決めたのに進んでいない」案件が出てきます。このとき大切なのは、すべての詰まりを同じ場所で解こうとしないことです。
詰まりには、2つの種類があります。
- 進め方が分からない、手が回っていない(本人の状況の問題)
- 判断や知識が足りず、決められない(材料の問題)
この2つは、受け止める場所が違います。どちらの受け皿もないと、詰まりはそのまま月次会議に持ち込まれます。

個人の詰まりを会議で扱うと、同じ話が繰り返される
まず、本人の状況で詰まっている場合です。ここを会議で扱うと、社長が「なぜ進んでいないのか」を聞き続けることになります。
ところが、止まっている原因が本人の状況にあるとき、その内容は会議の場では答えにくいものです。手が回っていない、進め方が分からない、他の仕事に押されている。大勢の前で言いにくいことばかりです。
答えにくいまま会議が終わるので、原因は分からず、翌月も同じ案件が同じ状態で議題に上がります。私の会社でも、この繰り返しが起きていました。
これを受け止める場が、上司との1on1です。1on1を進捗確認の場にすると何も変わりませんが、本人がどこで止まっているのかを一緒に整理する場にすれば、本人の状況は個別の場で扱われるようになります。
▷【関連記事:1on1を導入したのに機能しないとき、どこから見直すか|4つの段階】
判断や知識で詰まるものは、展開役が受け止める
もう一方の詰まりは、1on1では解けません。KPIの置き方が分からない、この判断でよいのか確信が持てない。材料が足りない状態です。
ここで相談先が社長しかなければ、質問はまた社長へ戻ります。私の会社では、社内に展開役をつくりました。
最初から役職として任命したわけではありません。KPI教育のスライド作りを1人に任せたのが始まりでした。その人が内容を理解して社内へ説明できるようになると、「分からなければ社長に聞く」以外の選択肢が、社内にできました。
その後、教育テーマを考えるところから任せるようになり、展開役を担う人も増やしました。
大事なのは、優秀な人を見つける話ではないということです。私が渡したのは、難しい仕事ではなく、最初は資料を1つ作る役割でした。役割を渡した結果として、本人の視野が広がっていきました。
▷【関連記事:社長依存を減らすために、社内に「展開役」をつくった理由】
この条件が欠けているときのサイン
- 同じ案件が、同じ状態で翌月の会議にまた上がってくる
- 会議で「なぜ進んでいないのか」を社長が聞き続けている
- 聞かれた本人が答えづらそうにしていて、原因が最後まで出てこない
- 分からないことがあると、社員がまず社長のところへ来る
条件4|学びが社内で回っている
4つ目は、教育です。ただし、これだけは性質が違います。
教育の内製化そのものは、先に進めることもできます。ただ、それだけで自走する会社になるわけではありません。私の会社では、条件1〜3を整えていく過程で展開役が育ち、その結果として、学びまで社内で回るようになりました。
条件1〜3の「次」ではなく、その上に乗る段階だと考えています。
条件4とは、その展開役が中心になって、組織の中で顕在化してきた課題を教育できるようになった段階です。社長が課題を見つけて教材を作るのではなく、社内で見えてきた課題を、社内の人が教育に変えていく。
条件1〜3が整った時点で、水準はかなり高いと思います。条件4は、さらにその上です。
ここへ至る道のりを、私の会社の例で見ていきます。私の会社は、外部研修を使うところから始まりました。そこから段階を追って、いまの形へ変えてきました。
外部研修で学ぶ
↓
社内で使う教材を作る
↓
社内の人が講師をする
↓
教材を作る方法も社内へ渡す
↓
社員自身が教育テーマを考え、教材を作り、展開する
内製化がどこまで進んだかは、誰が教育のテーマを決めているかで分かります。社長が課題を見つけて教材を用意している間は、社長の時間が上限のままです。
この条件が欠けているときのサイン
- 教育のテーマを、社長が見つけて渡している
- 教材をつくるのが、いつも同じ1人になっている
- 学んだ人が、教える側へ回っていない
▷【関連記事:社員教育を内製化するには|研修・教材・社内講師を仕組みにする考え方】
条件1〜3には順番がある
条件を4つ挙げましたが、どれから手をつけてもよいわけではありません。私の会社では、順番を間違えて空回りしたことがあります。
判断基準を渡す前に、社員へ「自分で考えてほしい」と伝えていた時期がありました。基準がない状態で考えてもらっても、出てくるのは社長の意向の推測です。考えているように見えて、当てにいっているだけでした。
順番には理由があります。
条件1 判断基準
↓
条件2 考える場と数字
↓
条件3 個人の詰まりを受け止める場
基準がなければ、場をつくっても議論する材料がありません。場がなければ、そもそも会社として何かを決める機会がありません。決まっていなければ、詰まりようもありません。
前の条件が、次の条件の材料になっています。
それぞれの条件には、効く教育があります。
- 条件1:KPIマネジメントの教育
- 条件2:会議そのものの設計と、ファシリテーターの育成
- 条件3:1on1の教育
ただし、すべてを完成させてから次へ進む必要はありません。私の会社も、判断基準が完全に整う前に月次会議の見直しを始めています。前の条件が半分でも動いていれば、次に進めます。
そして条件4は、この順番の外にあります。内製化を先に始めることはできますが、条件4だけを整えても、条件1〜3の代わりにはなりません。
自走度は「社員が自分で動いた回数」では測らない
4つの条件を挙げましたが、測り方には注意が必要です。
社員が自分で動いた回数を数えても、自走度は分かりません。指示がないから動いただけ、ということもあるからです。
私が見ているのは、月次会議で誰が原因を分析し、誰が打ち手を出しているかです。
以前の私は、会議で根掘り葉掘り聞いたうえで、次の打ち手を事細かく指示していました。そこから、社員が自分たちで原因を分析し、打ち手を決めて持ってくる状態へ、どれだけ近づいているか。ここに条件がそろってきたかどうかが出ます。

社長に来る質問の中身も、材料の1つです。「どうしましょうか」が減り、「こう進めようと思いますが、これでいいですか」という確認へ変わっていれば、判断が社内へ移り始めています。
ただし、見るのは数ではなく中身です。質問が減っていても、聞きに来ていないだけ、ということがあります。会議で出てくる中身のほうが、確かな手がかりになります。
どこから手をつけるか
各条件に挙げた「欠けているときのサイン」を見返して、当てはまるものを探してください。
- 相談が「どうしましょうか」で始まる → 条件1
- 会議が数字の報告で終わる → 条件2
- 同じ案件が同じ状態で翌月も議題に上がる → 条件3
複数当てはまる場合は、番号が小さいほうから手をつけます。前の条件が、次の条件の材料になっているためです。条件2のサインだけに見えても、その手前で判断基準が渡されていないことがあります。
条件4は、条件1〜3を進めた先に現れる段階です。先に内製化を始めても、条件1〜3の代わりにはなりません。
このカテゴリで扱うこと
このブログの「社内OSとは」カテゴリでは、次のテーマを扱っています。
社内OSの全体像:会議OSと育成OSという2つの仕組みで、会社を自律的に動かす考え方を扱います。個別の打ち手の前に、全体の位置関係を確認したい方向けです。
判断を社内へ移す:判断基準の渡し方、詰まりの受け皿のつくり方など、社長に集まっている判断を社内へ移す方法を扱います。
自走度の見方:自走している状態とはどういうものか、どこを見れば近づいていると分かるのかを扱います。
読んだあとに残りやすい疑問
自走度を上げるのに、どのくらい時間がかかりますか
私の会社では、施策を打ち出してから予算づくりの作り直しが減るまでに、約2年かかりました。
時間がかかった理由の1つは、最初のころ、教材を渡すことと、実務で使えるようになることを分けて考えられていなかったことです。
管理職へテキストを渡しても、実際の予算ではプロセスKPIを十分に設定できませんでした。そこで翌年、事前学習・集合研修・理解度テストに加えて、研修直後の予算作成と、展開役によるOJTまでつなげました。
学ぶ場と、実際に使う場、その間を支援する人。この3つがつながってから、浸透が進んだと感じています。
社員に「自分で考えてください」と伝えるのは効果がありますか
伝えること自体は必要ですが、それだけでは足りません。考える材料が渡されていなければ、考えようがないからです。
伝える前に、判断基準があるか、その基準を使う場があるかを確認してください。材料がそろっていれば、伝える必要すらなくなることもあります。
実際に「どうしましょう」と相談に来られたとき、何を返すかはこちらにまとめています。

展開役を任せられそうな社員がいない場合はどうすればよいですか
最初から全部を任せられる人を探すと、見つかりません。私も、最初に渡したのは資料を1つ作る役割でした。
任せられる人を探すのではなく、任せられる大きさに仕事を切る。そのうえで、判断基準と相談できる状態を用意します。役割を渡した結果として、できることが増えていきます。
まとめ
社長がいないと業務が止まるのは、社員の主体性の問題ではありません。判断基準、考える場と数字、詰まりの受け皿。この3つの土台と、その上にある社内で回る学び。どこかが渡されていないことが原因です。
私自身、答えを渡すことが自分の仕事だと思っていた時期がありました。答えではなく基準を渡すようになってから、社内に判断が残るようになりました。
自走は、目標にして直接近づくものではありません。4つの条件を1つずつ整えた結果として、後から現れます。
4つの条件を読んで「自社はどこまでできているのだろう」と感じた方は、現在地を一度確認してみてください。
社内OS診断アプリで確認できます。KPIマネジメント、月次会議、1on1、自走度の4領域を24問で見て、A〜Dのランクで表示されます。
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