「各部門で予算を作ってください」
以前の私は、そう言って予算作成を任せていました。ところが、各部門から出てくる活動計画を見ると、それまでのやり方から大きく変わっていない。改善活動も、十分には盛り込まれていませんでした。
結局、私の側で、現状を分析し、課題を考え、目標を設定する。予算を各部門に作ってもらっているはずなのに、最後は私がかなり手を入れる。そのため、予算作成にはかなり時間を取られていました。
当時は、「もう少し自分たちで考えてほしい」と思っていた部分もあります。でも今振り返ると、私にも大きな責任がありました。そもそも私は、会社としてどの損益を目指すのかという最終ゴールを、先に十分示していなかったのです。
ゴールを渡さず、「目標を考えてください」と言っていた。これでは、各部門も何を基準に改善案を考えればいいのか分かりません。社員が判断できないのではなく、判断するための基準を、こちらが渡していなかった。
予算の作り方を見直す中で、私はそこに気づきました。
以前は、予算資料はほぼ社長側の仕事だった
経営を任された当初、予算や月次の報告資料は、ほとんど社長側で作っていました。
何を報告するのか。
どんな数字を見るのか。
どこに問題があるのか。
次に何をするのか。
そうしたことを、こちら側で考えることが多かったのです。そこから、各部門でも数字を見て、自分たちで目標と行動を考えられるようにしたいと思い、KPIマネジメントを導入しました。
ただ、KPIを導入したからといって、すぐに自分たちで目標を作れるようになったわけではありませんでした。
「何をKPIにすればいいのか」
「どのくらいの目標にすればいいのか」
特に、成果につなげるために日々どんな行動を追えばいいのかという、プロセスKPIの設定には苦戦していました。そのため最初の頃は、私が答えを教えていました。
「この数字を見た方がいい」
「こういう活動を入れた方がいい」
「このプロセスKPIにしましょう」
こちらが考えて、指示する。当然、その方が早く進みます。でも、それを続けている限り、次の予算でもまた私に聞くことになります。
KPIを教えても、一度では十分に理解されなかった
もちろん、いきなり目標を考えてもらったわけではありません。KPIマネジメントについて、対話形式のテキストを作って、社員教育も行いました。ただ、一度教育しただけでは、十分に理解が進まなかった部分もありました。
特に、プロセスKPIです。成果として欲しい数字は分かっても、その成果につながる行動をどう数字にするのか。ここは、実際に考えてみると難しいところです。
そこで私は、改めてプロセスKPIの設定方法について、具体例も入れた教育資料を作りました。一度伝えたから、あとは本人たちでできるはず。そう考えるのではなく、つまずいているところがあれば、もう一度そこを教える。
教育もやり直しました。それでも、もう一つ足りないものがありました。
「何を達成すればOKなのか」を先に決めていなかった
以前の予算作成では、各部門に、それぞれの予算を積み上げてもらっていました。ただ、会社全体として、最終的にどの損益を目指すのか。その基準を、十分に先に示していませんでした。
すると、各部門からすれば、前年から大きく外れない数字を作ることはできます。今までの活動をベースに、来期の計画を作ることもできます。
でも、会社として必要な利益を出すために、今までの何を変えなければならないのかまでは分かりません。考えてみれば当然です。
ゴールを知らないのに、「もっと改善してください」と言われても、どこまで改善すればいいのか判断できません。私はここで、目標を考えてもらう前に、まず会社側が、判断の基準となるゴールを示す必要があると考えるようになりました。
今は、各部門が予算を作る前に損益計画を立てる
現在は、予算作業を始める前に、まず会社全体の損益計画を立てています。その際、いきなり私一人で、「来期はこの利益を目指します」と決めるわけではありません。事前に経理に試算してもらいます。
その数字をもとに、経理、私、そして社内でKPI展開を担っている管理職を交えて議論します。この収益目標は、現実からあまりにも離れていないか。会社として目指す数字として成立するか。事前に確認します。
そのうえで、会社全体として目指す損益の基準を、各部門へ提示します。そして、「この会社全体の目標を達成できるように、自部門の目標を考えてください」とお願いするようにしました。ここが、以前との大きな違いです。

社長が「正解」を渡すのではなく、OKを判断できる基準を渡す
以前は、各部門から出てきた目標を見て、私が、
「これでは足りない」
「ここをもっと増やしましょう」
「この活動を入れてください」
と答えを出していました。
現在は、先に会社として必要な収益目標があります。各部門は、その基準を満たすために、自分たちで目標を考えます。つまり、社長が一つひとつ正解を教えるのではなく、「何を満たせば、その目標設定でいいのか」という判断基準を先に共有している状態です。
すると、各部門長同士や、KPIの社内展開を担う管理職との間で、目標について調整できるようになりました。以前のように、すぐ社長へ、「目標はいくつにすればいいですか」と答えを求めなくても、自分たちで考えられる範囲が広がりました。
判断基準を渡すだけで、すべてできるわけではない
ただ、ここは誤解しない方がいいと思っています。判断基準だけ示せば、あとは全部社員ができるという話ではありません。会社全体の収益目標を渡されても、そこから、自部門では何を変えるのか。どんな成果を目指すのか。
そのために、どんなプロセスKPIを置くのか。ここまで考えるには、一定の知識が必要です。だから私たちは、KPIについて教育しました。一度で十分に伝わらなければ、教材も作り直しました。
そして、実際に目標を考える中で困ったときには、社内でKPIの展開を担っている管理職がOJTで支援しています。
つまり、現在の形は、
判断基準を渡す
→ 必要な知識を教育する
→ 実際に考えてもらう
→ 困ったところをOJTで支援する
という組み合わせになっています。

私は、この順番が大切だと思っています。
今では、予算資料も相談先も、社内に移った
現在は、予算資料の多くを、各部門側で作れるようになっています。部門目標を考える。必要なKPIを考える。プロセスKPIの設定に困れば、社内の展開役と相談する。部門長と展開役で調整する。
私の役割は、最終的なチェックが中心になりました。
現在は、各部門が、目標設定やプロセスKPIについて困ったとき、その展開役がOJTで支援しています。これは、単に私の仕事が減ったという話だけではありません。会社の中に、判断を支援できる人が増えたということです。
社長しか分からない。社長に聞かないと決められない。そこから、少しずつ、社内で相談しながら決められる状態へ変わってきました。

ただ、これは、ある日突然、社員が自分たちでできるようになったわけではありません。
KPIを導入した。
教育した。
もう一度教育した。
判断基準を先に示すようにした。
困ったときに教えられる人を社内に作った。
そうしたことを、一つずつ積み重ねてきた結果です。私は、これも社内OSを作るうえで大切なことだと思っています。
社長依存を減らすなら、「何を任せるか」だけでなく「何を基準に決めるか」を渡す
以前の私は、仕事を任せることと、判断を任せることを、少し同じように考えていたのかもしれません。
「予算を作ってください」と仕事を渡す。でも、判断するための基準は、私の頭の中にある。それでは、途中で必ず確認が必要になります。逆に、判断基準を共有できれば、社長とまったく同じ答えを出す必要はありません。
基準を満たす範囲で、各部門が自分たちの答えを考えることができます。私は、こちらの方が自走に近いと思っています。社員に、もっと自分で考えてほしい。管理職に、もっと判断してほしい。
そんなとき、本人たちの能力を見る前に、一度確認してみる。私は、何を満たせばOKなのかという判断基準を渡しているだろうか。以前の私は、そこが足りていませんでした。答えを教える方が、その場では早い。
でも、毎回答えを渡していると、次も社長の答えが必要になります。少し時間がかかっても、判断基準を共有し、考えるための知識を渡し、必要なところだけ支援する。
その積み重ねが、社長が全部決めなくても進む会社につながっていくのだと思います。
判断基準は、その土台の一つです。ほかに何がそろうと社長がいなくても進むのかは、こちらで整理しています。
▷【関連記事:社長がいないと止まる会社を変える|自走のための4つの条件】
KPIを「目標を決めるだけ」で終わらせないために
今回の例では、判断基準を共有したうえで、各部門が目標やKPIを考えられる形へ変えてきました。ただ、KPIは数字を設定すれば終わりではありません。成果として何を見るのか。その成果につなげるために、日々どんな行動を追うのか。
特にプロセスKPIまで考えることで、目標と日々の行動がつながりやすくなります。
▷【KPIが「成果指標」しかない会社が最初に整理すべき4つの言葉】
▷【動けないKPI、効かないKPI|プロセスKPIが満たすべき2つの条件】
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社長が一つひとつ答えを出すのではなく、各部門が自分たちで目標と行動を考えられる状態を作りたい方は、参考にしてみてください。
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