新しい仕組みを会社へ入れるとき、以前の私は、自分が説明すればいいと思っていました。
なぜこれをやるのか。
どうやって進めるのか。
分からないことがあれば、私が答える。
社長なのだから、それが自分の仕事だと思っていた部分もあります。でも、KPIマネジメントや社員教育など、会社の中で新しいことを増やしていくと、一つ問題が出てきました。
すべてを社長が説明していたら、新しい仕組みが増えるほど社長の仕事も増えていく。ということです。社長依存を減らすために仕組みを作っているのに、その仕組みを動かすために、また社長へ質問が集まる。
これでは、依存する場所が少し変わっただけです。そこで、少しずつ重要になっていったのが、私が「展開役」と呼んでいる存在でした。
最初から「展開役」を任命したわけではなかった
最初から、「あなたを社内の展開役にします」と決めたわけではありません。自然にそうなっていきました。最初の展開役になった社員は、もともと、私の考えを周囲へ伝えることを積極的に手伝ってくれる人でした。
自分の本来の仕事がある中でも、私が伝えたいことを理解し、周囲との橋渡しをしてくれる。そんな社員でした。私自身も、その人には、会社について悩んでいることや、これから実施しようとしている施策について、よく話していました。
「なぜ、この施策をやりたいのか」
「会社を今後どうしたいのか」
「今、どこに課題を感じているのか」
そうしたことを、比較的よく共有していたと思います。だから、私が考えていることの背景まで、少しずつ理解してくれるようになりました。振り返ると、施策を伝える前に、考え方を共有していたことが大きかったのだと思います。
最初に任せたのは、KPI教育のスライド作りだった
具体的な役割として、最初にお願いしたのは、KPIマネジメントの社員教育だったと記憶しています。私は、KPIマネジメントについてのテキストを作りました。そのテキストをもとに、研修で使うスライドを作ってもらいました。
そして、実際の研修講師も担当してもらいました。最初から、教育を一から企画してもらったわけではありません。
まず私が内容を作る。
それを理解してもらう。
スライドへ変換する。
社員へ説明する。
一つずつ、役割を渡していきました。
ここで感じたのは、社内に仕組みを広げる人は、単に資料を配る人ではないということです。
なぜこの仕組みを導入するのか。
どこが重要なのか。
社員から質問されたら、どう説明するのか。
そこまで理解していないと、展開することはできません。人へ説明する役割を持つことで、本人自身の理解も深まっていきました。
「分からなければ社長に聞く」以外の選択肢ができた
KPIマネジメントを導入した当初、社員や管理職が、いきなりKPIを自分たちだけで設定できたわけではありません。何をKPIにするのか。成果KPIとプロセスKPIをどうつなげるのか。どの程度の目標を置くのか。
実際に考え始めると、迷う場面が出てきます。以前であれば、そのたびに私が答えていました。でも、展開役が育ってくると、選択肢が一つ増えました。分からないことがあれば、社長だけでなく、社内の展開役にも相談できる。
現在は、各部門が目標設定やプロセスKPIで困ったとき、展開役がOJTで支援しています。部門長と展開役で話し合い、それでも必要なところを、最後に私が確認する。
以前より、判断や教育の途中に、私が入らなくても進む場面が増えました。

今では、教育テーマを考えるところから任せている
最初は、私がテキストを作り、展開役がスライドへ変換していました。その後、教材を作るところから任せられるのではないかと考え、私が教材作成に使っていた生成AIのプロンプトも渡しました。
現在は、展開役自身が、「今、社員にどんな教育が必要か」というテーマ選定から考えています。
テーマを考える。
テキストを作る。
スライドを作る。
研修をする。
そこまで、自分たちで進めるようになりました。
教育を動かす役割そのものが、私一人に集中する状態ではなくなってきました。

展開役をお願いする中で、本人の視野も広がっていった
展開役をお願いして良かったことは、私の仕事が減ったことだけではありません。役割をお願いする中で、本人の見える範囲も変わっていきました。一つの部門だけを見るのではなく、会社全体を見る。
社員へ教育するために、他部門が何に困っているのかを知る。KPIを支援するために、会社全体の目標とのつながりを考える。少しずつ、視野が広がり、視座も上がっていったように感じました。
その後、予算の取りまとめも対応してもらうようになりました。管理職を取りまとめる役割も、担ってもらうようになりました。
「優秀な人を見つければいい」という話ではない
ここで誤解してほしくないのは、「社内に優秀な人を見つけて、全部任せればいい」という話ではないことです。最初から、KPIも教育も予算も分かる人がいたわけではありません。
最初は、私の考えを理解し、周囲へ伝えることを手伝ってくれるところから始まりました。
次に、テキストを渡して、スライドを作ってもらう。
研修講師をお願いする。
教材を作る方法を渡す。
KPIで困っている部門を支援してもらう。
教育テーマそのものを考えてもらう。
予算の取りまとめもお願いする。
一つずつ役割を広げていった結果、できることが増えていった。
という順番です。

だから私は、展開役について考えるとき、最初から完成された人を探す必要はないと思っています。大切なのは、会社の方向を理解しようとしてくれる人に、少しずつ役割と道具を渡していくことだと思います。
私にとって展開役は「フォロワー」に近い
私は、展開役を、単なる教育担当者とは考えていません。私の考えていることを理解し、その意図を社内へ広げ、実際の仕事につなげてくれる。私にとっては、フォロワーに近い存在だと思っています。
ここでいうフォロワーは、社長の言うことに何でも従う人、という意味ではありません。私が何を目指しているのかを理解し、そのうえで、社内でどう実現するかを一緒に考えてくれる人です。
社長一人が、全社員へ直接考えを伝え続ける。
全社員からの質問に答える。
全部門を教育する。
すべての進捗を見る。
会社が小さくても、これを続けるのは簡単ではありません。だから、社長の考えを理解し、社内へつなぐ人がいることは大きいと感じています。
展開役を、一人に集中させない
最初の一人だけに、すべてを集中させたいわけではありません。そのため、展開役を担う人を増やしました。特定の人に、新しい依存を作ってしまえば、また同じ問題が起きます。会社の中で、仕組みを理解し、説明できる人を増やしていく。
そして、その人たち自身も、さらに次の人へ伝えていく。私は、こちらの方が、長期的には強いと思っています。
社長依存を減らすには、仕組みと人の両方がいる
以前の私は、仕組みを作れば会社は変わると、少し単純に考えていた部分があったと思います。
KPIを作る。
会議を変える。
教育資料を作る。
ルールを決める。
もちろん、仕組みは必要です。でも、仕組みだけを会社へ置いても、自然に広がるわけではありません。
誰かが、その意味を理解する。
誰かが、分からない人を支援する。
誰かが、必要に応じて改善する。
そうして初めて、仕組みが会社の中に残っていきます。仕組みを作ることと、仕組みを広げる人を育てること。この二つは、セットだったのだと思います。

社長依存を減らしたいと考えると、「もっと社員に任せよう」と思うかもしれません。でも、単に仕事を渡すだけでは、分からないことがあれば、結局社長へ戻ってきます。私が必要だったのは、仕事を渡すことだけではありませんでした。
会社が目指していることを共有する。
その背景を話す。
一緒に考える。
教材やプロンプトなど、仕事を進めるための道具を渡す。
少しずつ、役割を広げる。
社長が全部説明する会社から、社内で教え合い、相談し、仕組みを広げられる会社へ。
その間をつないでくれるのが、私にとっての「展開役」です。
「答えを教える」から「判断できる会社」へ
展開役がいるだけで、会社が自動的に自走するわけではありません。各部門が自分で考えるためには、何を満たせばいいのかという判断基準も必要です。
▷【関連記事:社長が全部決める会社を変える|答えより先に「判断基準」を渡す】
私は予算づくりでも、以前は各部門へゴールを十分に示さないまま、目標を考えてもらっていました。現在は、会社全体の収益目標を先に共有し、その基準の中で各部門に目標を考えてもらっています。
そして、KPI設定で困ったところを、展開役がOJTで支援しています。

仕組みを作る。判断基準を共有する。そして、それを社内で支援できる人を増やす。私は、こうした積み重ねが、社長が全部動かさなくても進む会社につながっていくと考えています。
展開役は、その中の「詰まりを受け止める場」にあたります。全体の条件はこちらで整理しています。
▷【関連記事:社長がいないと止まる会社を変える|自走のための4つの条件】
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