営業部門のプロセスKPIとして、
- 既存顧客訪問件数
- 新規顧客訪問件数
を、それぞれ設定していたのです。ところが月次会議では、なぜか二つがまとめられ、「顧客訪問件数」として報告されていました。整理すると、こういう状態です。
| 予算で設定していたプロセスKPI | 月次会議での報告 |
|---|---|
| 既存顧客訪問件数 | 顧客訪問件数(既存と新規をまとめて集計) |
| 新規顧客訪問件数 |

営業側の独自判断で、二つを一つにまとめていたのです。数字だけを見ると、営業は顧客訪問をしている。特に大きな問題はないようにも見えます。ところが、あるとき私は報告を聞きながら違和感を覚えました。
訪問した会社や、そこでどのような会話になったのかを聞いていると、新規顧客の話がほとんど出てこなかったのです。そこで確認してみると、報告されていた顧客訪問件数の大半は、既存顧客への訪問でした。
予算では、新規顧客訪問件数を独立したプロセスKPIとして設定している。でも月次会議では、その数字を独立して見ていなかった。ここから、私の会社では一つの問題が見えてきました。
プロセスKPIは、予算に設定しただけでは機能しません。月次会議などの管理サイクルの中で継続して報告し、上司が確認できる状態にしておかなければ、「実行できているか」だけでなく、「そのプロセスKPIの設定自体が正しかったのか」まで分からなくなってしまいます。
予算に書いた数字と、毎月見る数字は別です
KPIマネジメントを始めるとき、まず考えるのは数字の設定です。どの成果KPIを見るのか。その成果につなげるために、どのプロセスKPIを見るのか。私の会社でも、予算を作る段階ではそこまで考えていました。
ただ、一つ抜けていたことがありました。設定したプロセスKPIを、毎月どこで確認するのか。という視点です。予算に入っている数字は、「今年、この数字を追う」と決めた数字です。
一方、月次会議で報告する数字は、「この数字を毎月確認する」と決めた数字です。似ていますが、同じではありません。予算にプロセスKPIを入れたからといって、自動的に月次会議で個別に報告されるわけではありません。
今回も、「既存顧客訪問件数」、「新規顧客訪問件数」という二つのプロセスKPIを予算上では分けていました。
しかし月次会議では、一つの「顧客訪問件数」にまとめられていた。これでは、どちらが動いていて、どちらが動いていないのか分かりません。
だから、新しいプロセスKPIを設定したときには、報告・確認する仕組みまで一緒に変える必要があります。
数字を分けて見ると、初めて違和感が見えてくる
既存顧客訪問件数と新規顧客訪問件数は、どちらも「訪問」です。ただし、目的は違います。既存顧客への訪問と、新しい顧客を開拓するための訪問では、同じ一件でも意味が違います。
それを「顧客訪問件数」としてまとめてしまうと、訪問活動全体は行われているように見えても、新規顧客への訪問だけがほとんど進んでいないという状態を見落とします。
私自身も、訪問した会社や会話の内容を聞くまで、この違和感をはっきり認識できていませんでした。そこで、新規顧客訪問件数を独立したプロセスKPIとして、月次会議で報告してもらうようにしました。
すると、次の問題が見えてきました。
独立して報告してもらっても、件数はほとんど増えなかった
ここが、今回一番重要なところです。新規顧客訪問件数を独立して報告してもらうようになったからといって、訪問件数が大きく増えたわけではありません。ほとんど増えませんでした。そこで私は、「なぜ新規顧客へ訪問できていないのか」を確認しました。
すると営業から、「取引先にお願いしても、アポイントを取ってもらえない」、「自社でテレアポをしても、会いたい担当者へ取り次いでもらえない」という話が出てきました。
その時点で私は気づきました。自分たちでコントロールしにくい数字を、プロセスKPIとして設定していたのではないか。ということです。プロセスKPIは、自分たちの行動で動かせる数字である必要があります。
ところが、新規顧客訪問件数は、
- 取引先がアポイントを取ってくれるか
- 相手企業が訪問を受け入れてくれるか
- 電話をした際、会いたい相手へ取り次いでもらえるか
といった、自分たちだけでは決められない要素に大きく左右されていました。

つまり、新規顧客訪問件数が増えなかったのは、営業が真面目に取り組んでいなかったからとは限らなかった。プロセスKPIそのものの設計にも問題があったのです。
報告されないプロセスKPIは、設計ミスにも気づきにくい
もし新規顧客訪問件数を、ずっと「顧客訪問件数」の中にまとめたままだったらどうなっていたでしょうか。おそらく、「営業は顧客訪問をしている」という見え方が続いていたと思います。
すると、「なぜ新規顧客への訪問が増えないのか」という問い自体が生まれません。当然、「そもそも、この数字は営業本人がコントロールできるものなのか」というところにもたどり着きません。
私は、ここが今回の経験で一番大きかったと思っています。月次会議で数字を見るのは、社員を管理するためだけではありません。設定したプロセスKPIそのものが、本当に適切なのかを検証するためでもあります。
今回、新規顧客訪問件数を独立して報告してもらったからこそ、「なぜ増えないのか」を確認できました。そして、その理由を聞いたことで、「プロセスKPIとして、自分たちで動かせる数字になっていない」と気づくことができました。
つまり、報告されないプロセスKPIは、未達が見えないだけではありません。プロセスKPIそのものの設計が間違っていることにも気づきにくいのです。
プロセスKPIは「作って終わり」ではない
KPIを設定するとき、できるだけ最初から正しい数字を決めたいと思います。ただ、実際に運用しなければ分からないこともあります。自分たちで本当に動かせる数字なのか。実行すると、どんな障害が起きるのか。
そして、その行動が成果KPIにつながっているのか。こうしたことは、数字を設定した時点ですべて分かるとは限りません。だからこそ、
設定する
↓
実行する
↓
月次会議などで報告する
↓
上司が確認する
↓
違和感があれば理由を確認する
↓
必要ならプロセスKPIを見直す
という管理サイクルが必要になります。プロセスKPIに必要な、「自分で動かせる行動か」、「成果につながる行動か」という二つの条件については、こちらの記事で詳しく整理しています。
▷【動けないKPI、効かないKPI|プロセスKPIが満たすべき2つの条件】
KPIを変えたなら、月次会議で見る数字も変える
今回の経験から、もう一つ感じたことがあります。会社として新しいKPIを設定しても、月次会議で見る数字が以前のままなら、実際の管理は変わりにくいということです。予算ではプロセスKPIを設定している。
でも月次会議では、これまで通り成果KPIを中心に見る。あるいは今回のように、複数のプロセスKPIを一つにまとめてしまう。これでは、KPIの設計だけが変わって、運用が追いついていません。
新しい成果KPI・プロセスKPIを設定したなら、「この数字を、どこで報告するのか」、「誰が継続して確認するのか」まで決める必要があります。
私の会社でも、一度の指示ですべてが変わったわけではありませんでした。見直しを進めるために、何度か指示を出す必要がありました。仕組みを変えるというのは、一度説明すれば終わるものではない。
実際の報告や会議の進め方まで変わって、初めて運用が変わります。月次会議で数字だけを報告して終わらず、原因や今後の対応まで考える方法については、こちらの記事で整理しています。
▷【月次会議で社長が「なぜ」を繰り返してしまう原因と、最初の見直し方】
自社では、この3点を確認してみてください
もし、「成果KPIやプロセスKPIは決めたのに、思ったように運用できていない」と感じているなら、まず予算と月次会議の報告内容を横に並べてみてください。確認したいのは、3点です。

1. 予算にある成果KPI・プロセスKPIが、月次会議でも個別に報告されているか
予算にはあるけれど、月次会議では見ていない数字がないか確認します。設定しただけで管理サイクルに乗っていない数字は、実行状況を把握しにくくなります。
2. 複数のプロセスKPIが、一つの数字にまとめられていないか
今回の私の会社では、既存顧客訪問件数と新規顧客訪問件数が、「顧客訪問件数」としてまとめられていました。目的が違うプロセスKPIをまとめると、どこで止まっているのかが分かりにくくなります。
3. 未達のプロセスKPIについて、「なぜ動けないのか」を確認できているか
ここで大切なのは、「なぜやらなかったのか」と社員を責めることではありません。本当に本人たちが動かせる数字なのか。実行するうえでどんな障害があるのか。そもそもプロセスKPIの設定が適切だったのか。という視点で確認します。
独立して報告するようにしたからといって、必ず数字が良くなるわけではありません。私の会社でも、新規顧客訪問件数はほとんど増えませんでした。
でも、増えなかったからこそ、プロセスKPIの設計に問題があると気づくことができました。
KPIは、設定したあとに育てていく
KPIマネジメントは、数字を決めて終わりではありません。
成果KPIを決める。
プロセスKPIを決める。
実行する。
月次会議などで継続して確認する。
違和感があれば理由を考える。
そして、必要ならプロセスKPIそのものを見直す。
この繰り返しです。今回の新規顧客訪問件数も、独立して報告するようにしたことで、件数が増えたわけではありません。
しかし、増えなかった理由を確認したことで、自分たちではコントロールしにくいプロセスKPIを設定していたことに気づきました。これは大きな違いです。社員が動けないとき、「もっと意識させよう」、「もっと厳しく管理しよう」と考える前に、そのプロセスKPIは、本当に本人たちが動かせる数字なのか。
そして、その数字を継続して報告・確認できる仕組みになっているのか。ここから確認した方がいい場合があります。月次会議で見るのは、社員を管理するためだけではありません。
設定したプロセスKPIそのものを検証するためでもあります。KPIは、作ったときに完成するものではありません。実際に使い、違和感を拾いながら、自社に合う形へ修正していくものです。
KGI・CSF・成果KPI・プロセスKPIの役割から整理したい方は、こちらの記事も参考にしてみてください。
▷【KPIが「成果指標」しかない会社が最初に整理すべき4つの言葉】
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