「社長のようになぜなぜをやっています」
1on1を始めてから、2か月ほどたった頃でした。私は、普段からよく話をする管理職に、「1on1、やってくれている?」と聞きました。すると、自信満々に返ってきたのが、この言葉でした。その瞬間、「これはまずい」と思いました。
なぜなら私は、管理職に1on1をお願いするとき、
「何のために行うのか」
「どのように進めるのか」
をほとんど教育していなかったからです。伝えたのは、「隔週くらいで部下と1on1をしてください」ということくらい。私自身も、当時は1on1を実際にやったことがありませんでした。
今振り返ると、これで正しく運用されると思っていたこと自体が、最初の間違いでした。
KPIマネジメントとファシリテーションを入れても、次の問題が残った
1on1を導入する前から、私の会社ではKPIマネジメントの導入を進めていました。成果KPIだけを見るのではなく、プロセスKPIも見ながら、
「なぜこの結果になったのか」
「次に何をするのか」
を考える。さらに、月次会議にはファシリテーションも取り入れました。
以前よりも、社長である私だけが考えて話すのではなく、管理職や社員から意見が出るようになり、月次会議で有益な議論ができる状態には近づいてきたと感じていました。
ところが、そこで次の問題にぶつかりました。会議で、
「誰が」
「何を」
「いつまでに」
まで決めた。
それなのに次の月次会議になると、決めたことが実行されていない。
会議を改善すれば、決めたことも実行される。
当時の私は、どこかでそう思っていたのかもしれません。でも、実際にはそう単純ではありませんでした。会議で決めたことが実行されないとき、会議と1on1をどう分けるかについては、こちらの記事でも整理しています。
▷【会議で決めたことが実行されないとき、会議と1on1をどう分けるか】
最初は「上司の進捗確認不足」だと思っていた
その頃、私は、上司が部下の進捗を確認していないことが原因ではないかと考えていました。私が以前所属していた職場では、週に一度、課長とスタッフだけで各テーマの進捗を確認する機会がありました。
一方、私の会社では、定期的に進捗を確認している部署もあれば、ほとんど確認していない部署もありました。そこで、「毎週でなくてもいい」
「隔週くらいで部下と話す場があれば、途中で止まっていることにも気づけるのではないか」と考えました。
1on1という言葉自体は以前から知っていました。その内容をある程度知るようになったきっかけは、Xでフォローしている方々の投稿です。
投稿を見ながら、「自社で起きている問題の解決に使えるかもしれない」と思い、導入することにしました。ただし、この時点の私は、1on1をかなり単純に、上司が部下の進捗を確認するための個別面談のように捉えていました。
そこで私は、管理職に1on1の実施をお願いしました。しかし、事前教育はしていません。目的の共有も十分ではありません。進め方についても教えていませんでした。私自身も経験がないまま、まず実施だけをお願いしたのです。
そして約2か月後、管理職から返ってきたのが、「社長のようになぜなぜをやっています」という言葉でした。なぜ、そうしたのか。少し考えると、すぐに理由が分かりました。
教えていなければ、自分が知っているやり方を使う
私は普段から、その管理職に少し厳しめに接していました。
トラブルが起きたときには、二人で、
「なぜ起きたのか」
「その原因は何なのか」
と深く考えることもありました。私は、問題解決のために行っていました。
しかし、その管理職から見れば、私との対話でよく使われる方法の一つが「なぜなぜ」だったわけです。その状態で、「1on1をやってください」とだけ言われた。それなら、自分が知っている対話の方法を使うのは、ある意味自然です。
このとき私は、教えていないのに、こちらが想定したやり方で実施してくれると思っていたことに気づきました。1on1に限りません。新しい仕組みを会社へ導入するとき、名前だけ渡して、「やってください」では、人によって解釈が変わります。

1on1が「なぜなぜの場」になると何が起きるか
私はその管理職に、「1on1は、なぜなぜをする場ではない」と伝えました。トラブルの原因を検討するときと、上司と部下が1対1で話すときでは、同じ「なぜ?」でも受け取られ方が違います。個室で上司から、
「なぜ?」
「それはなぜ?」
と繰り返されたら、部下が原因を考えるより、「何と答えればいいのか」を考える状態になる可能性があります。上司には問い詰める意図がなくても、部下にはそう聞こえることがあります。
それでは、本人が本当に困っていることを話しにくくなります。ここで私は、1on1は、上司が原因を聞き出す場ではないということを改めて考えるようになりました。
口頭で注意するだけでは、また解釈が分かれる
ただ、「なぜなぜはやめてください」と伝えるだけでは不十分だと思いました。そもそも私自身が、1on1を十分に理解しないまま導入していたからです。そこで、私自身も1on1について学び始めました。
生成AIも使いながら、管理職向けの教育資料や会話の進め方を整理しました。さらに、私が進めている社内OSの考え方を理解し、社内展開を手伝ってくれているメンバーにも協力してもらいました。
管理職には、まずテキストを使って自習してもらい、その後、集合研修も実施しました。
最初は、「1on1をやってください」だけだったものを、
「何のために行うのか」
「上司はどういう役割を持つのか」
「どのような時間にするのか」
まで共有する形へ変えていきました。
もう一つ変えたことがあります。管理職に、「部下と1on1をしてください」とお願いするだけではなく、私自身も管理職との1on1を行うようにしました。月次会議と次の月次会議の中間で、管理職と1on1を実施しています。
自分でも実際にやってみると、それまでとは見え方が変わりました。最初の私は、1on1を進捗確認の場として考えていました。
しかし、実際に学びながら行っていくと、進捗を確認するだけでは、本人がなぜ動けないのかまでは分からないことに気づきました。
1on1で確認したいのは「進んだか」だけではない
会議で決めたことが進んでいないとき、「進んでいますか?」と聞けば、「まだです」という答えは返ってきます。でも、本当に必要なのは、その先です。
何が止めているのか。
どこで困っているのか。
本人は何を迷っているのか。

場合によっては、本人自身も、なぜ止まっているのかを整理できていません。だから私は今、1on1を、単なる進捗確認ではなく、本人が実行途中でどこに詰まっているのかを整理する場として考えています。
そして、上司がたくさん質問することより、本人に話してもらうことの方が重要だとも感じています。
導入後も、やり方を確認する必要がある
教育や研修を行ったからといって、すぐに全員が1on1をうまくできるようになったわけではありません。管理職にも、慣れない部分がありました。会話の進め方を確認しながら、1on1を続けてきました。
ただ、以前のような「なぜなぜ」を繰り返す面談からは変わってきています。私は、1on1とは別の目的で部下と個別に話すことがあります。その際、上司との1on1について聞くことがあります。
すると、「よく話を聞いてくれる」と言ってくれる社員も出てきました。まだ完成したわけではありません。それでも、「1on1をやってください」とだけ伝えていた頃とは違います。
ここから分かったのは、導入時の説明だけでなく、実際にどう運用されているかを確認することも必要だということです。
1on1を導入するとき、最低限そろえたい3つのこと
私自身の失敗を振り返ると、管理職に1on1をお願いするとき、最低限この3つはそろえておいた方がいいと考えています。

1. 1on1の目的を共有する
「部下と個別に話してください」
だけでは、人によって目的の理解が変わります。
進捗確認なのか。
評価なのか。
問題を追及するのか。
本人の困りごとを整理するのか。
まず、何のための時間なのかをそろえる必要があります。
2. 上司の役割を共有する
1on1だからといって、上司がたくさん質問すればいいわけではありません。答えを教えればいいわけでもありません。本人が話しながら、自分の状況を整理できるように支援する。
その役割を共有しておかないと、上司それぞれが自分の知っている面談方法を持ち込みます。
3. 実施したあとに確認する
「やってください」と伝えて終わりにしないことです。
実際にはどんな1on1になっているのか。
管理職自身が困っていないか。
部下はどう感じているのか。
導入後に確認しながら、修正していく必要があります。私の会社でも、2か月後に管理職へ聞かなければ、「なぜなぜ」が続いていたかもしれません。
「導入した」と「機能している」は違う
KPIマネジメントを導入する。
ファシリテーションを導入する。
1on1を導入する。
会社では、さまざまな新しい仕組みを取り入れます。でも、導入したことと、その仕組みが機能していることは同じではありません。
私自身、1on1という仕組みを入れれば、上司と部下の間で進捗確認が行われ、会議で決めたことも実行されやすくなる。最初は、そのくらいに考えていました。
ところが、目的や進め方を共有しなければ、管理職は自分の知っている方法で実施する。それが今回の、「社長のようになぜなぜをやっています」でした。
今は、KPIマネジメント、月次会議、1on1を、それぞれ単独で考えないようにしています。月次会議で次の行動を決める。その後、実行途中で個人が困っていることを1on1で整理する。そして、また実行する。
次の月次会議で振り返る。そうしてつなげていくことで、初めて仕組みとして回っていきます。1on1も、ただ始めることが目的ではありません。社員が動けない理由を整理し、次の行動へ進める状態をつくること。
そのためには、「1on1をやってください」の一言だけでは足りませんでした。
1on1の導入は、目的・上司の役割・実施後の確認をそろえるところから始まります。ただ、そろえたあとにも整える段階があります。全体の流れはこちらで整理しています。
▷【関連記事:1on1を導入したのに機能しないとき、どこから見直すか|4つの段階】
1on1の基本を体系的に整理したい方へ
Kindle『対話形式で学ぶ!1on1ミーティングの基本』では、1on1の役割や考え方、月次会議との違い、実行途中で社員が立ち止まったときの支援について、対話形式で整理しています。
「1on1を始めたけれど、何を話せばいいのか分からない」
「進捗確認や詰問の時間になってしまう」という方は、こちらも参考にしてみてください。
\ Kindle+なら無料で読めます /
本書の読者向けに、1on1で話した内容を次の行動と記録までつなげるWebアプリを用意しています。
