「自分なりに考えてみましたが、難しいです。どうしましょう」
そう言って資料を持ってこられたとき、その場で直してあげるのがいちばん早く終わります。
ただ、それを続けていると、持ってくるものの中身が少しずつ変わっていきます。
この記事では、「どうしましょう」と聞かれたときに何を返すか、そしてその場で指示したほうがよい場面との線引きをまとめます。
結論を先に書くと、返すのは答えではなく、詰まっている一段だけです。
その場で直してあげるのが、いちばん早い
期限が迫っていて、提出先も決まっている。
そういう状況では、自分で直したほうが確実に早く終わります。
私もそうしていました。良かれと思って、その場で中身を確認し、直して仕上げていました。
ところが、これを続けると、相手が学ぶのは資料の作り方ではありません。
「どうせ直される。早く出したほうが効率的だ」ということの方を学びます。
私の会社で起きたこと
私の会社では、重いトラブルが起きたときに、報告書と原因の分析をセットで提出する決まりになっていました。
原因の分析では、「なぜ」を何段階か掘り下げていきます。
ところが、最初の頃に上がってきていたのは、報告書の素案が先にできていて、分析はそこから逆算されたような状態のものでした。
因果がつながっていないまま、「自分なりに考えてみましたが、難しいです。どうしましょう」と持ってこられる。
期限があるので、私がその場で因果関係をチェックして、修正し、仕上げていました。
しばらくして、上がってくる報告の形が変わりました。
「なぜ」が3段階で止まり、そこから間が飛んで、対策だけが書いてある。
責めるべきは相手ではありません。そうなるように、私が毎回直していたのです。
返し方を「一段だけ」に変えた
そこで、返し方を変えました。
詰まっている箇所について、一段だけ、自分が考える答えを伝える。
その先は、口頭で方向性をさらっと伝えるだけにして、書面には落としません。
そのうえで、もう一度自分で考えてきてもらう。
自分で考える余地を、意識的に残すためです。
同時に、練習する場所も変えました。
重いトラブルは、年に1件あるかないかです。自分が関われる期間は限られているので、その頻度では練習になりません。
そこで、頻度の多い、軽い事象の報告を練習の場にしました。
こちらは提出の期限に追われないので、こちらが仕上げる必要がありません。
1年で4回ほど、考える経験を積んでもらううちに、少しずつ変わっていきました。私の見立てでは、いまは最初から8割方は使える状態のものが出てきます。
「どうしましょう」の裏にあるのは、たいてい基準か情報の不足
返し方を変えるだけでは足りません。そもそも、なぜ止まったのかを見る必要があります。
私の会社で多かったのは、次の2つでした。

何をどの水準まで満たせばよいか、伝えていなかった
目標を分解するときも、原因を掘り下げるときも、上からと下からの両方でたどって、つながっているかを見ます。
私はチェックするときにそれをやっていましたが、その観点を伝えていませんでした。
社員は、何を見られるのかを知らないまま提出することになります。つながっていないものが出てくるのは当然でした。
いまは、私がどこを見ているかを先に伝えています。
すると、自分なりにチェックしてから持ってきてくれるようになりました。お互いに、やり直しの手間が減りました。
決めるために必要な数字を、渡していなかった
以前、予算を作るときに、会社として必要な利益の目標を伝えないまま、各部門に下から積み上げてもらっていました。
どこまで積み上げればよいのか、部下には分かりようがありません。
いまは、利益の目標を先に立ててから、それをもとに予算を作ってもらっています。
判断基準を渡す考え方は、社長が全部決める会社を変える|答えより先に「判断基準」を渡すに詳しく書いています。
考える相手を、社長以外にも用意する
「一段だけ返す」やり方には、弱点があります。社長の手が空いていないと成立しないことです。
一段返して、持ち帰ってもらって、また見る。この往復には時間がかかります。忙しい時期には、結局こちらで仕上げたくなります。
そこで最近は、考える相手を私以外にも用意するようにしました。
きっかけは、自分自身の体験です。原因を掘り下げる作業を生成AIと壁打ちしながら進めてみたところ、得るものが多くありました。
一人で考えているときは、思いついた原因をそのまま書いてしまいます。壁打ちすると、「それは本当に原因ですか」と別の角度から返ってきます。その往復で、考えが整理されていきます。
そこで、プロンプトを学んでいない人でも同じことができる形にして、社内で使えるようにしました。
もちろん、AIに答えを書かせれば、結局は考えなくなります。そこは「一段だけ返す」のときと同じです。
渡すのは答えではなく、考えを進めるための相手だと考えています。

それでも、その場で指示する場面はある
毎回考えさせるのが目的ではありません。
私は、次の場面では考えさせる前に指示を出します。
- 対外的な期限があるもの
- 重いトラブルが起きたときの、その場での応急的な対応
一方で、原因の深掘りと、恒久的な対策は自分で考えてもらいます。
止めるべきときはすぐ止める。そのうえで、落ち着いてから考える場をつくる。この2つは分けられます。
急ぎの場面で考えさせようとすると、育成にもならず、対応も遅れます。
最初の一歩
次に「どうしましょう」と持ってこられたときに、1つだけ試してみてください。
全部を直す前に、詰まっている一段だけを返して、もう一度持ってきてもらう。
このとき、「自分で考えて」とだけ言わないことが大切です。それは基準も情報も渡さないまま突き返すことになり、相手は止まったままになります。
一段だけ渡す。残りは口頭で方向だけ伝える。そして、もう一度見せてもらう。
手戻りが1回増えるように見えますが、同じことを毎回直す回数は減っていきます。
まとめ
「どうしましょう」と聞かれたときに答えを全部渡すと、相手は次から考えなくなります。直してもらうことを前提にした形で出てくるようになるからです。
- 返すのは答えではなく、詰まっている一段だけ
- その先は口頭で方向を伝え、書面には落とさない
- 止まった理由が基準の不足か、情報の不足かを見る
- 期限のあるものと、応急的な対応はその場で指示する。考えてもらうのは原因と恒久的な対策
社長がいなくても判断が進む状態をどう作るかは、社長がいないと止まる会社を変える|自走のための4つの条件にまとめています。
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