出張で数日空けると、戻ったときに止まっている案件がいくつもある。
急ぎの判断を仰ぐ連絡が入り、結局その場で決めることになる。社員に任せたいとは思っているのに、任せた先が進まない。
この状態は、社員のやる気や能力が足りないから起きているのではありません。社長の側から渡していないものがあるために起きています。そして、場面によって渡すべきものは違います。
この記事では、その状態がどの場面に、どんな形で現れたかを3つに分けて整理します。打ち手の前に、自社が今どこに当てはまるかを確かめるための記事です。
ここで書くのは、私が任された会社で見えたものです。私の会社は、日々の業務については責任をもってやり切る会社でした。止まっていたのは、中期計画や予算、重いトラブルへの対応といった大きな案件のほうです。
社長依存とは、社長にしかできない仕事が社長に残り続けている状態
社長依存とは、本来は社員でもできるはずの仕事が、社長のところに残り続けている状態です。
残り続ける理由は、大きく2つに分かれます。
1つは、判断の基準が渡っていないこと。社長の頭の中には、課題の見方、優先順位、何を良しとするかの基準、そしてどの粒度まで考えて報告してほしいかという期待値があります。これが言語化されず、予算などの計画づくりや会議の運営にも落ちていなければ、社員は確認待ちにならざるを得ません。
「考えろ」と言われても、何を基準に考えればよいか分からないからです。
つまり、動けないのは考える材料が渡っていないからです。ここを意欲の問題として扱うと、打ち手が「もっと当事者意識を持ってほしい」という話になり、何も変わりません。
もう1つは、任せて指導する機会を作ってこなかったことです。基準を渡すだけでは足りず、実際にやらせてみる場が要る仕事があります。
私の会社では、この2つが場面ごとに分かれていました。
- 会議・報告と、計画・予算づくり:判断の基準が渡っていなかった
- トラブル対応:基準ではなく、任せて指導する機会が足りなかった
トラブル対応は期限のある案件が多く、教える時間が取れず、こちらが処理してしまうからです。

場面ごとに、足りないものを分けて見ていきます。
サイン① 会議・報告|数字は出るが、原因も打ち手も出てこない
月次会議で、トレンドグラフが示され、予算に対して達成か未達かが報告される。そこで報告が終わります。
未達であっても、「では次に何をするか」は、社長が聞かない限り出てきません。
ここで見ておきたいのは、報告されている数字の種類です。成果の数字(売上や利益)だけが並び、そこへ向かう行動の数字が報告に入っていなければ、原因を語る材料がそもそもありません。
私の会社では、報告の様式が「結果を伝える」ためだけに作られていました。数字は出るのに打ち手が出ないとき、様式のほうを見てみる価値はあると思います。
サイン② トラブル発生時|次の動きが「社長がどう言うか」で決まる
重いトラブルが起きたとき、報告そのものは上がってきます。ところが原因の調査が浅く、真因までたどり着かないまま報告で終わります。
そして報告のあと、次の動きは「社長がどう言うか」で決まります。
報告はある。でも、判断と改善が社内に根づいていない。この差は、平常時の会議より、トラブルのときに出やすいと感じています。
ここで一つ、私が長く取り違えていたことがあります。
私の会社には、フォームはすでにありました。トラブルの報告フォームも、なぜなぜ分析のフォームも用意されていて、様式は整っていたのです。
それでも真因まで届かなかったのは、任せて指導する機会を作ってこなかったからでした。トラブル対応には期限があります。教えながら進める時間が惜しくて、結局こちらが処理してしまう。その繰り返しでした。
自社を確かめるなら、直近のトラブル対応を思い出してみてください。
- 報告を受けた時点で、原因はどこまで特定されていたか
- 次の対策は、誰が最初に口にしたか
2つ目が「自分だった」なら、私の会社と近い状態かもしれません。
サイン③ 計画・予算づくり|生データは出るが、課題設定が社長に残る
3つ目は、年に一度しか現れないぶん、見過ごされやすいサインです。
管理職は、生データを出すところまではできます。しかし、自部門の課題を整理し、スタッフへの指導を含めた計画を立てるところまでは進みません。
私の会社では、翌年度の課題設定から資料作成まで、実質的に社長任せになっていました。
予算は1年の設計図です。ここを社長が握っている限り、期の途中でいくら任せようとしても、社員は自分が決めた計画を動かしている感覚を持てません。
なぜ、大きな案件だけが社長に集まったのか
以前の私の会社は、この3つがそろっていました。
ただし、これは私が経営を任されてから始まったことではありません。
中期計画、予算、重いトラブルの対応。こうした大きな案件を、歴代の経営陣が、時間を優先して自分たちで処理し続けてきました。私もその一人です。
そのぶん、社員に任せて育てる機会は作られてきませんでした。日々の業務は責任をもって回っているのに、大きな案件になると、社長がすべて判断しないといけなくなる。そういう構図が、長く引き継がれていたのだと思います。
その場その場で見れば、自分で処理したほうが確実で、早い。だから誰も間違ったことはしていません。ただ、それを続けた結果として、任せられる人が育たない状態が残りました。
私はしばらく、これを管理職の当事者意識の問題だと考えていました。問題があったのは管理職ではなく、任せてこなかった側だったと、いまは思います。
1つだけ当てはまるときは、どう見るか
3つがそろっている会社ばかりではありません。当てはまる数と場所で、見る場所が変わります。
- ①だけのとき:報告の様式と、報告に入れる数字の種類から見直す。会議は毎月あるので、変えた結果が早く分かる
- ③だけのとき:任せているようでいて、課題設定は渡していない状態。予算づくりの手順のどこから社長が入っているかを確かめる
- ②が出ているとき:基準を渡しても動きません。任せて指導する機会のほうが足りていないので、そこを作るところから始めます
2つ以上当てはまるなら、個別の場面を直すより、何を渡していないのかを先に整理したほうが早いです。
3つのうち、どこから手をつけるか
私が最初に手を入れたのは、業務目標シートに載せる数字でした。会議は、その数字を報告する場です。
具体的には、2つを整えました。
- 業務目標シートに、成果の数字だけでなく、そこへ向かう行動の数字(プロセスKPI)を入れる
- 報告資料の様式と、分析結果を書くための文章のテンプレートを作る
テンプレートは、たとえばこういう形です。
「プロセスKPIである〇〇が未達のため、成果KPIである△△も未達となった。今月はプロセスKPIを挽回するために□□の頻度を××して増やします」
穴埋めで書けるところまで落としました。
そのうえで、プロセスKPIを報告で扱う意味を教育しました。順番としては、こうなります。
報告の様式を変える
↓
埋め方のテンプレートを渡す
↓
なぜその項目を見るのかを教育する
変化は、埋める文言のテンプレートを用意したところから出ました。社員からの打ち手の報告が増えたのです。
考える力が急に伸びたわけではありません。考えた結果を書く場所と書き方が、それまで無かっただけでした。
成果の数字と行動の数字をどう分けるかは、こちらで整理しています。
▷【関連記事:KPIが「成果指標」しかない会社が最初に整理すべき4つの言葉】
いまは、予算づくりの大部分を管理職に任せられるようになっています。
トラブル対応(サイン②)だけは、進め方が違います。ここは基準を渡すだけでは動きません。任せて指導する機会が要るからです。
私は、比較的簡単で、期限に余裕のある案件から任せるようにしています。そこで一緒に進めながら、徐々に重くて期限の厳しい案件へ広げていく。
期限の厳しい案件から任せようとすると、必ず時間優先に戻ります。教える時間が惜しくなるからです。

まとめ
社長依存は、社員のやる気の問題ではありません。社長の側から渡していないものがあることの結果です。
そして、渡すべきものは場面によって違います。会議と予算づくりでは判断の基準、トラブル対応では任せて指導する機会でした。
3つのうち、いくつ当てはまるでしょうか。
自分で処理したほうが早い場面ほど、この状態は強くなります。社長が先に答えを出すたび、社員が考える場面は1回ずつ減っていくからです。
見直す順番や、自走に必要な条件は、こちらで整理しています。
▷【関連記事:社長がいないと止まる会社を変える|自走のための4つの条件】
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