「社長、その話題は最後に時間があったら議論しましょう」
会議中、若手社員から私にそう言われたことがあります。その日の私は、会議で気になったことが次々と出てきて、本来の議題とは別の話まで広げ始めていました。以前の私なら、そのまま話し続けていたと思います。
でも、その日の会議では、若手のファシリテーターがいました。私たちの会議では、話が本題から外れたときは、いったん「パーキングエリア」に置き、本来の議題が終わって時間があれば、あとで議論するというルールを決めていました。
若手のファシリテーターは、そのルールに沿って、社長である私の話を止めてくれました。しかも、普段はどちらかというと物静かな社員でした。私はそのとき、若手にファシリテーターを任せる意味を、改めて感じました。
ファシリテーターを任せたのは、会議を楽にするためだけではない
私が若手社員にファシリテーターをお願いした理由は、単に、「社長が会議を進行するのは大変だから」ではありません。もう一つ、大きな目的がありました。
次の管理職候補となる人たちに、管理職になる前から必要な経験をしてほしいと考えたからです。管理職になると、自分の意見を言うだけでは足りません。でも、管理職になったその日から、突然できるようになるものではありません。
だったら、若いうちから、実際の会議で経験してもらえばいい。私はそう考えました。
ファシリテーションをすると、「聞いているだけ」ではいられない
会議に参加しているだけなら、自分に直接関係のある話だけを聞くこともできます。必要なときだけ発言して、それ以外は他の人の議論を聞いていることもできます。でも、ファシリテーターになると、そうはいきません。
今、何について話しているのか。
まだ意見を言っていない人はいないか。
この議論は、何を決めるためのものなのか。
話が脱線していないか。
結局、次に何をするのか。
会議全体を見なければなりません。つまり、自分の担当業務だけではなく、会議全体を見る視点が必要になるということです。私は、この経験が、将来管理職になったときに役立つと思っています。

管理職になってから必要になる力を、先に経験してもらう
管理職になると、自分自身が仕事をするだけではなく、人を通じて仕事を進める場面が増えます。そのとき必要になるのは、話す力だけではありません。むしろ、人から話を引き出す力が必要です。
たとえば、「何か意見はありますか?」と聞いて、誰も答えなかったとき。
そこで自分が答えを言うのか。
もう少し問い方を変えるのか。
特定の人に意見を聞くのか。
少し考える時間を取るのか。
ファシリテーターをしていると、こうした場面に何度も直面します。また、意見は出たけれど、結論が曖昧なこともあります。
「頑張ります」
「改善します」
だけでは、次の行動にはなりません。
そこから、「具体的に何をしますか?」
「誰がやりますか?」
「いつまでにやりますか?」
と、行動まで落とし込む必要があります。私は、こうした経験を、管理職になってから初めて学ぶのではなく、その前から経験してほしいと思いました。
いきなり本番には出さなかった
もちろん、「来月からファシリテーターをしてください」と、いきなり任せたわけではありません。社員教育については、以前、プロセスKPIを教えた経験から、私なりに一つの教育方法ができていました。
まず、事前教材を読んでもらう。
そのあと、集合研修を行う。
そして、実際に使う。

ファシリテーションについても、同じように進めました。まず、ファシリテーションの考え方を事前に学んでもらいました。そのあと、集合研修を行いました。ただ、会議の進行は、知識だけではなかなかできません。
そこで、実際にファシリテーターを担当する前に、2回ほど、「自分がファシリテーターだったら、この会議をどう進めるか」をシミュレーションしてもらいました。
どこで質問するか。
誰に意見を聞くか。
議論が止まったらどうするか。
話が脱線したらどう戻すか。
最後に何を確認するか。
そこまで考えてもらったうえで、実際の会議でファシリテーターを経験してもらいました。

知っていることと、その場でできることは違う
ファシリテーションの本を読めば、基本的な考え方は学べます。研修を受ければ、進め方も理解できます。でも、実際の会議では、予定通りには進みません。
誰かが長く話す。
話題がずれる。
思ったほど意見が出ない。
急に別の課題が出てくる。
そして、社長が話し始める。
私自身が、その一つでした。だから、事前に学ぶだけではなく、実際の会議で経験することが必要だと思っています。
若手社員が、社長の話を止めてくれた
冒頭の話に戻ります。私は、会議の中で気になることが出ると、つい、
「あれも確認したい」
「これも話しておきたい」
となることがあります。以前にも書きましたが、社長になってから、私は社長になる前より、かなり会議で話すようになりました。自分で、「今日は話しすぎないようにしよう」と考えるだけでは、なかなか難しい。
そこで、会議にはグランドルールを設けています。その一つが、話が脱線したら、いったんパーキングエリアへ置くというルールです。
ある会議で、私が本来の議題とは違う話まで広げ始めたとき、若手のファシリテーターから、「社長、その話題は最後に時間があったら議論しましょう」という趣旨のことを言われました。
私は、「ああ、ちゃんとファシリテートしてくれているな」と思いました。社長が話しているから、止められない。ではなく、会議のルールに沿って、必要なら社長の発言も整理する。私が求めていたのは、まさにそういう役割でした。
普段の姿だけでは見えないものがある
さらに印象に残ったのは、その社員が、普段は比較的物静かだったことです。もし、普段の発言量だけを見て、「この人はファシリテーションには向かないだろう」と判断していたら、任せなかったかもしれません。
でも、役割を渡してみると、必要な場面では、きちんと会議を前へ進めることができる。これは、私にとって一つの発見でした。もちろん、若手全員が、同じレベルでファシリテーションできるようになったわけではありません。
得意な人もいます。まだ経験が必要な人もいます。それでいいと思っています。ただ、「ファシリテーションがうまい人を、そのまま管理職にする」という単純な話ではありません。管理職に必要な力は、それだけではないからです。
一方で、ファシリテーターを任せると、普段とは違う姿を見ることができます。だから私は、若手全体に経験してもらうことで、一人ひとりの力を伸ばすと同時に、それまで見えていなかった強みを見る機会にもしたいと思っています。
大切なのは、実際に役割を渡さなければ見えない力があるということです。
「発言してください」と言うより、役割を渡してみる
若手社員に、「会議でもっと発言してください」と言うことはできます。でも、それだけでは、なかなか変わらないこともあります。
何を話せばいいのか分からない。
自分が話す必要性を感じていない。
役職の高い人が先に話している。
いろいろな理由があります。そこで私は、単に発言を求めるのではなく、会議の中で役割を渡すという方法を使っています。ファシリテーターになれば、発言する必要があります。人に質問する必要があります。議論を整理する必要があります。
会議の最後には、何が決まったのか確認する必要があります。つまり、環境の方から、必要な経験が生まれます。私は、こちらの方が育成として自然だと思っています。

役割を渡すなら、道具も渡したい
一方で、「ファシリテーターを任せるから、あとは自分でやってください」では、負担が大きくなります。経験が少ない人ほど、会議の中で、「次に何を聞けばいいのか」が分からなくなることがあります。
だから私は、教育だけでなく、実際の会議で使える道具も渡したいと考えています。私はKindleの読者特典として、会議で使うトークスクリプトを作るためのアプリを用意しています。
今後は、これを会社の若手社員も使える形にして、ファシリテーションをするときの支援にしたいと考えています。初めて会議を進行する人が、全部を頭の中だけで考えるのではなく、事前に、
「この場面では何を聞くか」
「どう次の話題へ進むか」
を準備できるようにする。私は、役割を渡すなら、その役割をやりやすくするための道具も一緒に渡した方がいいと思っています。
社長が進行しない会議は、若手の育成機会にもなる
最初、私がファシリテーションを導入した理由の一つは、自分自身が会議で話しすぎることでした。
自分で自制し続けるのは難しい。
だったら、進行役を別に置く。
これは、私自身のためでもありました。でも、若手社員にファシリテーターを任せてみると、別の価値も見えてきました。
会議を進める経験そのものが、若手の育成になる。
そして、普段の仕事だけでは見えなかった力も見えてくる。
社長が会議の進行を手放すことで、若手が経験を得られる。
そう考えると、ファシリテーションは、単なる会議改善の方法ではありません。人を育てる仕組みにもできます。まだ、全員が同じようにできるわけではありません。私たちも、試しながら改善している途中です。
でも、若手社員が、会議の中で社長である私に、「その話はあとにしましょう」と言えるところまで来た。私は、その一言に、ファシリテーターを若手へ任せた意味が表れていると思っています。
ファシリテーターを置くことは、会議を見直す5つの要素のうち「進行」にあたります。全体の見取り図は、こちらの記事で整理しています。
▷【関連記事:月次会議が報告会で終わる会社が、最初に見直す5つのこと】
会議で若手に役割を渡す前に、場のルールを整える
若手社員にファシリテーターを任せる場合、本人の力量だけに任せないことも重要です。今回紹介したように、私たちの会議では、話が脱線したときの扱いなど、あらかじめグランドルールを決めています。
ルールがあるからこそ、若手のファシリテーターも、役職が上の人に対して、「この話題はいったん置きましょう」と言いやすくなります。

また、私自身が会議で話しすぎる状態から、ファシリテーターへ進行を移していった経緯については、こちらの記事で紹介しています。
▷【関連記事:社長が話しすぎる会議を変える。事前準備とファシリテーターで見直したこと】

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